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フィンランドのネウボラ

 継続的子育て支援の理論的整理を試みるとき、基本的には社会制度論のバリエーションとして考察する必要があろうかと思われます。
しかし、ここでは、かつてはインフォーマル ・セクターの中で行われてきた子育て支援を、世帯規模の縮小、女性の労働力率の上昇、地域ネットワークの脆弱化などの要因で福祉や社会保障制度の枠組みの中に入ってきた問題として捉えます。
そのため、歴史的には家庭 ( 家政学 )の中で捉えられてきましたが、今日では福祉の領域に入ってきた問題であります。
また、一方で社会保障制度財政の中 ・長期的安定をはかるため、公的な仕組みの役割を減らして私的仕組みを活用しようという動きもあります。 (※1)

 このような往復の動きの中で、かつて家族 ・家庭のみを対象としてきた家政学 ・家庭科教育もその研究の対象を広げてきています。
2008年7月〜8月、筆者も出席し、スイス ・ルツェルンで開かれた国際家政学会100周年記念大会において、新しいPosition Statement が採用され、対象を個人、家族、コミュニティに広げていることを確認しています。(※2)

 つまり、福祉ミックス時代において、公的セクター ・私的セクターを繋ぐ仕組み、あるいは予防としての学校教育をも射程に入れながら、ホリスティックな検討を始めるべき課題が浮かび上がってきたということが言えます。

 継続的子育て支援の先進事例として、北米と北欧の調査をしました。

 北米では、別に記しているように、NPO等が積極的にかかわる形で、ノーバディズ・パーフェクト・プログラムや、HFA ( Healthy Family America )の認可を受けたヘルシー ・スタート ・プログラムが動いています。

 北欧 ( フィンランド )では、ネウボラという機関が各所にあり、出産前の健診から子どもが学校に行くまでのすべての相談や援助をしています。

 ここに、2008年3月に行ったフィンランド ・エスポーにあるネウボラでのインタビューの主な内容を載せておきます。

 フィンランド ・ネウボラにおけるインタビューと回答

1. 妊婦の定期健診で行っていることは?
リストを作っているが、それぞれの段階 ・月齢で決めたことをしている。
2. ネウボラの職員の資格は?
病気にならない予防士。
高校卒業後、専門学校で2〜3年の勉強をして資格を取る。
3. 資格のための教育内容は?
看護士の資格と違うところは、健康な母親であるため、健康を維持するための、あるいは様々な病気を予防するための知識と技術を学ぶ。
4. 家庭訪問はしているか ( 訪問の目的 ・内容 )?
できるだけ行く。
主に、妊娠の最後頃、母親と赤ちゃんが家に帰る1週間以内に。2ヶ月頃に。
5. 虐待予防としての取り組みはしているか ( 内容 )?
うまく子どもを育てる方法等を書いた冊子を作ってすべての妊婦に配布している。
6. 母親が虐待を受けていることが見つかることはあるか?
ここでは、言えない。
7. 労働環境はどうか ( 一人当たり何人を受け持っているか )?
年間40−50人の母親 ( 新生児 )と子ども200人位を担当する。忙しい。
ストレスは時々ある。
8. 保育所との連携のシステムは?
親になっていく教育から、ネウボラと保育所が連携している。
9. 産院 ( 病院 )との連携のシステムは?
母子手帳を介して連携する。
10. プレ ・スクールとの連携のシステムは?
保育所と同じ。
11. 小学校との連携のシステムは?
どの学校でも看護師がおり、そこに情報が行く。
12. 病院の選択、出産方法の選択はどのようにしているか?
決められたエリアのなかにある病院から自分で選べる。
出産方法は、欲しいと思ったら痛みを和らげる注射や薬をもらう。
陣痛促進剤は使わない、自然分娩。
100%病院で生まれる。
85%普通分娩。15%帝王切開。
13. 出産後の母親のケアの方法は?
両親が面倒をみるように持って行きたいから、手を出しすぎない。
アドバイスはするが、替わりにすることはしない。
14. 緩んだ膣を元に戻すための器具については?
聞いたことはない。
15. 1つの病院と1つのネウボラがどの面積、人数をcoverしているのか?
3歳以下と3歳以上の部屋が分かれている。
16. どこが統括しているか?
基本的には市が。
17. 病院で検診する妊婦とネウボラで検診する方の違い、比率、受診者が選択できるのか?どのような方が選択するのか?
内科的合併症、精神科的合併症など持つ妊婦は?
基本的には全員がネウボラで。
人によって、高血圧だったりしてもネウボラに来るが、子どもにどんな影響があるかを聞きに2、3回病院に行く。
18. 医師、保健師、看護師、助産師などの年収は、他の職業と比較してどの程度?
差がない。医師は高い。
夜や朝働くことで上がる。
19. 医師の女性比率は?
半分以上が女性。
20. 保健師、看護師、助産師の女性比率は?
ネウボラには男性は入っていない。
ヘルシンキには男性の助産師が3人いる。
21. 入院中、退院直後の新生児のケアは?
例えば、何日間入院?
新生児黄疸の時期は越えて退院?自宅で検査?訪問?
赤ちゃんは48時間して小児科の検診が終わらないと帰れない。
同じ部屋に入る。
そこでケアの仕方を学ぶ。
黄疸の場合は退院できない。
22. 胎児の超音波検査の有無、回数、医師がしているか?
助産師?保健師?検査技師?
2回病院へ行って超音波を受ける。
23. 親子手帳 ( 母子手帳 )に似たものがあるのか?
ある。(ただし、出生後は別の手帳で男の子はブルー ・女の子はピンク。
24. 夫と受診することは多いのか?
夫婦で受診することが多いし、赤ちゃんを連れて父親だけで来ることもある。
25. 里帰り分娩の比率は?
こんなものはフィンランドにはない。(多分、日本の悪習といわれるのでは?
26. 夫の立会い分娩の比率は?
90%。夫と二人で産むのが普通。最後まで二人で。
27. 母乳哺育の率は?
わからないが、半年間は頑張って母乳を出してみる。
28. 母乳バンクはあるか?
でない母親のためにバンクを使う。
29. 妊娠中の女性、子育て中の女性への支援に関する社会的リソースの情報の伝達方法は?
ネウボラに来てもらったり、訪問したり、電話で行われるものもある。
30. 周産期医療にともなう過重労働、医療訴訟などの状況は?
医療訴訟は世界で一番少ない。裁判等は聞いたことがない。
病院のストレスは、大きい。看護師は疲れている。
31. 妊娠中絶の割合は?
2006年に60,000人子どもが産まれ、10,000人中絶をしている。
20歳以下は少ない。20−24歳が一番多い。
32. ネウボラの制度が導入されたのはどういうプロセスか?
1940年代からはじまっているが、法律に位置づけられたのは72年から。


 わが国において今後継続的子育て支援を理論的に整理していく基本としては、北米のような自由主義型を志向した場合、NPOや企業等による家族サポートを活性化する方向での ( ある種の )政策が必要になるでしょうし、北欧のような普遍主義型を志向した場合には現在の税制のままでは困難であることは見えています。

 したがって、わが国の場合は、かつて家庭や地域でインフォーマルに行われていた子育て支援をすべて国家が担うという方向ではなく、国家 ( 行政 )、企業、家庭がどうつながり、何を学び、何をサポートしていくのがいいのか、様々な国内、国外の事例をみながら、とくに行政の連携とサポート、さらに教育との連携を視野に入れて考えたいと思います。

 日本でも、日本経済新聞の記事 「 妊娠中から子育て支援 」(※3)等を整理すると、以下のような取り組みが始められているようです。

(1) 母子保健法に基づく新生児家庭訪問
(2) 母子手帳交付時からの情報提供・交流支援
(3) 育児等保健指導
(4) 出産費用支援の拡大
(5) 複合的な少子化対策


 以上をまとめ、出生前からの継続的子育て支援のモデル化として、以下の点が指摘できるのではないかと思っています。

@ まず、わが国の継続的子育て支援には、北欧型のネウボラのようなものはすぐには無理だとしても、妊娠が分かった時点で行う母子手帳交付時からの支援が必要である。
このときに支援が受けられる情報が伝わるようにすることが不可欠である。
A 行政の連携により、何らかのアセスメント ( 質問票 )などによるニーズの把握が必要である。
B できれば、保健所からの家庭訪問と、携帯番号を伝えることによる安心感があると良い。
C 出産費要支援の拡大のなかに、すべての検診時に超音波による検診を入れるよりは、訪問による相談に費用を回すなどして、シンプルでも心のケアを含んだ支援にしていくことが必要なのではないか。


 私は、それらの新しい支援の方向をもっと 「 前倒し 」する必要があるのではないかと考えています。
それは、これらの継続的子育て支援の方法を含めた、バーズ ・エデュケーションをケアリング教育として学校教育の中に位置づけるという提案です。
ここからは、教育学の範疇、とくに家庭科という教科教育の範疇に入る問題となりますが、現実の生活と政策と教育を有機的に繋げていくことこそ、何よりも重要な教育の課題であると考えています。

 詳しくは、正保正惠『 出産前からの継続的子育て支援 ― 家庭科におけるケアリング教育への接続を考える ― 』 福山市立女子短期大学紀要第35号 2009.1. をご覧ください。


(※1) 府川哲夫 「社会保障制度の行方 ―日本への含意―」 『 社会保障制度改革 日本と諸外国の選択 』 国立社会保障・人口問題研究所編、東京大学出版会 2005,pp125-148
(※2) IFHE 2008 POSITION STATEMENT
(※3) 日本経済新聞2008年8月25日朝刊



2008.3. in Finland (フィンランド・エスポーの保育所ドアのリトル・ミー似顔絵)


 
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