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ニューエコノミーの浸透



 古今東西の歴史をたどれば、どんな制度にも賞味期限があるということは明白で、
現在は 「 大きな構造転換の中にある 」といわれます。
「 大きな転換期 」といわれる所以は、家族、教育、労働、性などの社会制度のように、そんなに早くは変わらないといわれてきたものが少しずつではありますが一定の方向性を持って転換しつつあることが見えてきたからだと思われます。

 そのキーワードとして、
「構造的な経済転換 (ニューエコノミーの浸透 )とその影響 」=「家庭機能のさらなる縮小」
を挙げたいと思います。
そのロジックは以下の通りです。

 (1) ニューエコノミーの浸透

 今世紀に入った頃から日本でも多く紹介されるようになってきた論調に、「 ニューエコノミーの浸透 」があります。
山田昌弘がその近著 『 迷走する家族 戦後家族モデルの形成と解体 』(※1)でも紹介しているように、世界の著名な経済学者や社会学者の中で、1990年頃から社会経済構造に大きな変化が生じており、資本主義社会が新たな段階を迎えたと主張する論者が増えています。
たとえば、経済学ではピーター ・F ・ドラッカーが 「 ネクスト ・ソサエティ 」(※2)という造語で、ロバート ・ライシュはこの小論のタイトルにもした 「 ニューエコノミー 」(※3)を用いて、旧来の資本主義経済との質的な断層を説明しています。
また、社会学ではアンソニー ・ギデンスが 「 暴走する世界 」(※4)、ウルリッヒ ・ベックは 「 リスク社会 」(※5)、ジグムンド ・バウマンは 「 リキッド ・モダニティ 」(※6)、G ・エスピンーアンデルセンは 「 ポスト工業経済 」(※7)という用語を用いていますが、それぞれがお互いに影響を与えながら、資本主義の新しい段階における社会関係の変化を描いています。

 とりわけクリントン政権時の労働長官であったロバート ・ライシュは、 『 勝者の代償 』のなかで、ニューエコノミーにおいては、必然的に雇用の二極化をもたらすことを強調しています。
従来の大量生産型工業社会 ( オールドエコノミー )では、企業は、終身雇用・年功序列・家族賃金などによって働く労働者を安定的に雇用していました。
ニューエコノミーにおいては、インターネットなどに代表される技術革新によって、モノやサービスの生産 ・流通コストが飛躍的に低下し、消費者の選択肢を格段に増やしてきました。
しかしそれは同時に、モノやサービスを生産し売っている生産者 ( 企業 )にとっては、ますます容易に消費者から選択され、競争に勝ち残るための付加価値添加、コスト削減などの戦略に日々邁進せざるを得なくなることを意味します。
オールドエコノミーでは消費者にとって選択肢は少なかったけれども、生産者にとって安定的であり、そこで働く労働者にとっても安定的な生活が保障されていました。
ニューエコノミーでは全く逆で、消費者としてより豊かになればなるほど、生産者 ・労働者としてより不安定になり、さらに需要の多い才能を持った者はより多くの報酬を得、需要の少ない者はより少ない報酬しか得られないため、所得格差が拡大し二極化が進行します。(※8)
つまり、IT化とグローバル化は必然的に労働力の二極化を生み出す、という理論がニューエコノミー論に代表される構造的な経済転換の本質です。

 (2) 家庭機能のさらなる縮小と格差の拡大化
 
 ここからが重要ですが、ロバート ・ライシュはさらに、次のようにいいます。
ニューエコノミーの浸透により、所得格差が拡大しますが、その中で勝者となってもそれは一時的なものであり、勝ち続けるためには個人生活をさらに犠牲にして働き続けねばならず、家庭やコミュニティはバラバラになっていきます。
このことを 「 勝者の代償 」として描き出したのです。
そこで 「 勝ち組 」も 「 負け組 」もそれぞれ別の理由によって働き続けざるを得ず、結果的に女性の社会進出と相まって家庭の機能はますます縮小していくことになるのです。

 その上で、ライシュはこうしたニューエコノミーの矛盾に対して、三つの選択肢を示しています。

@ 社会的副作用を生み出している技術革新や市場経済化を止める。
( =ネオ ・ラッダイト運動 )
A 現在進行している変化を行くところまで突っ走らせる。
( =社会的分断の拡大 )
B 両者のバランスをとる。
( この方向をめざすべき )(※9)


 
 (3) 父親 ( 機能 )の不在
 
 そのような社会状況の中で、21世紀に入ってから社会教育法の改正や次世代育成支援対策推進法のなかで 「 家庭教育 」の充足を強く謳い、「 家庭重視 」を推進しようとしていることは見えますが、小木美代子は、スウェーデンとの比較(※10)の中で、日本の男性の家事 ・育児参加の難しさに言及しています。(※11)
スウェーデンでは、男女とも午後5時ごろまでに帰宅するのが最も多く、平均して35.5%が毎日家族全員で夕食をとっていますが、我が国では21.3%で実に5家族中4家族が夕食を一緒にとっていません。
また、スウェーデンでは、男性も週2〜3回は 「 料理作り 」を行い、「 食事の後片付け 」も
約80%が何らかの形で行いますが、我が国は妻がフルタイムで働いている場合さえ、46%が
「 まったくしない 」ようです。

 これらのことをうけて、2004年12月の 「 子ども・子育て応援プラン 」 ( 少子化社会対策大綱に基づく重点施策の具体的実施計画 )には、保育対策だけでは少子化の解消につながらなかったとして、仕事と家庭の両立支援と働き方の見直しに関する施策が盛り込まれているのです。

 私たちは男性も女性も働き方の見直しを迫られていますが、とりわけ正保本人が生活しているような地方都市においては、その道筋は大都市とは別の方策があるように思います。

 そのキーワードは、「 残存コミュニケーションの活用 」でしょうか。
祖父母や近隣ネットワークを意識化して大切にすることで、大都市圏の生活者よりも楽に 「 両者のバランスを取る 」地点にたどり着くことができるのではないでしょうか?

 その際に、LOHAS ( Lifestyle of Health and Sustainability=健康と持続可能な生活 )の思想はキーポイントとなります。



(※1) 『迷走する家族 戦後家族モデルの形成と解体』有斐閣、2005
(※2) 『ネクスト・ソサエティ―歴史が見たことのない未来がはじまる』
上田惇生訳、ダイアモンド社、2002
(※3) 『勝者の代償―ニューエコノミーの深淵と未来』清家篤訳、東洋経済新報社、2002
(※4) 『暴走する世界―グローバリゼーションは何をどう変えるのか』佐和隆光訳、ダイアモンド社、2001
(※5) 『危険社会―新しい近代への道』東廉・伊藤美登里訳、法政大学出版局、1998
(※6) 『リキッド・モダニティ―液状化する社会』森田典正訳、大月書店、2001
(※7) 『ポスト工業社会の社会的基礎―市場・福祉国家・家族の政治経済学』
渡辺雅男・渡辺景子訳、桜井書店、2000
(※8) 清家篤ロバート・B・ライシュ『勝者の代償』訳者あとがきp447-448
(※9) 前掲書p448-449
(※10) 内閣府経済社会総合研究所・財団法人家計経済研究所
『スウェーデンの家族生活―子育てと仕事の両立―』2005
(※11) 小木美代子「多様な家族形態を認め合い、支援する社会の創造へ
『子ども白書2005』p127-131
 







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