4.北海道における「食」関連についての連携 |
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今回の北海道訪問調査インタビューで最も印象に残ったことは、国による様々な法律ができる以前から、すでにそれぞれの取り組みは行われており、連携も出来上がっていた、ということでした。
当初試みようとした国の施策がどのように地域で実現されているのか、という視点は、北海道においては全く逆の方向で、現実に行ってきた取り組みを、国の施策にどう繋げて再定義するかという別の課題があったように感じました。
したがって、国の施策以前からの、北海道オリジナルの連携と情報発信の方法について、考察しました。
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4−1. 道庁を中心とした取り組み |
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北海道の連携がプラスに機能している点について、北海道農政部食の安全推進局食品政策課に伺い、インタビューをしました。
その結果、いくつかの取り組みについて具体的に聴くことができました。
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(1)北のめぐみ愛食運動道民会議 |
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設立は、1997年(平成9年)に遡ります。
そこから何度かの改訂の末、現在の趣旨は、以下のように記されています。
農林水産物の輸入増加や国内産地間競争の激化などにより、本道農林水産業をめぐる情勢が厳しさを増す中で、今後とも本道農林水産業の安定的な発展を図るためには、道民の道産農林水産物やその加工品に対する愛食気運の醸成と道内消費拡大の取り組みを強化することが緊急の課題となっている。
一方、食に対する消費者の関心が高まる中、生産者をはじめとした関係者の安全で安心な食品の生産・供給や、消費者の食に関する知識や安全な食品を選択する力の習得などを通じ、生産する側と利用する側が相互の信頼関係を構築するとともに、北海道ならではの地域に根ざした食文化を継承・発展させていくことが求められている。
このため、地元でとれた農林水産物やその加工品を地元で消費する「地産地消」をはじめ、北海道に合った「スローフード運動」、食に関して必要な知識を学び実践する「食育」などを総合的に推進するため、「北のめぐみ愛食運動道民会議」(以下『会議』という。)を設立し、関係者が一体となって道民運動としての「愛食運動」を推進する。(※5) |
この趣旨を読めば、この「会議」の目的は、大きく2つあることがわかります。
書かれた順から言えば、生産者サイドを守ること、そして消費者サイドも守ること、そのために「地産地消」、「スローフード運動」、「食育」の3つの分野の推進を図る、というものでありました。
会長には、北海道知事が就いており、「愛食宣言」を次のように行っています。(※6)
一、 |
私たちは、北海道の大自然の中で育まれた豊かな恵みを味わい、質の良い、安全な食物を生産する皆さんを支え、その源である北の大地や海を守っていきます。 |
一、 |
私たちは食べ物の生い立ちに関心を持つとともに、食のあり方を見つめ直し、健康的な食生活をめざします。 |
一、 |
私たちは地域の食材や料理を大切にし、北海道ならではの豊かな食文化を育み、伝えていきます。 |
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ここでは、生産者側と消費者側の連携を謳うとき、団体の並びにおいても宣言の文面においても、生産者を先に置いていることがわかります。
生産者の努力があっての、地産地消であり、食育であるという認識があると解することができます。
ただし、パンフレットの「愛食運動とは」の説明において、
・・・・北海道が平成15年4月に発表した「北海道スローフード宣言」に掲げる理念と、平成17年3月に制定した「北海道食の安全・安心条例」に掲げる地産地消を総合的に普及啓発し、効率や価格の安さばかりを追求してきたこれまでの暮らしや生き方そのものを変えていこうとする道民運動 |
とされているように、資本主義的な経済の論理で動くのではなく、消費者側の安全・安心の論理を生産者側に届けるという展開もなされており、北海道の食を安全・安心で底上げしつつ、全体として盛り上げていこうというものでした。
生産と消費はある時は緊張関係にありますが、北海道においては、この「会議」の成立によって風通しの良い場所ができ、真摯に発言しあうことで高めあることもできるという実践が行われたととらえることができ、競争原理を損なうことなく、消費者の論理を滑り込ませる方策のモデルを見たように思いました。
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(2)北のめぐみ愛食フェア |
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写真1:
北のめぐみ愛食フェア2009パンフレット(※7) |
さて、「会議」は緩やかな連帯を作り、その目的にあわせて内部の団体が様々に連携をとりながら進められているようです。
そのもっとも大きな取り組みイベントとして、「北のめぐみ愛食フェア」があります。
これは、全道の生産者が各地より農産物、水産・畜産加工品等を持ち寄って自ら対面方式で直接消費者に販売する、といいうもので、毎年5月から11月の間、全道で開かれています。
2008年度の実績は、11会場で延べ46回75日間開催され、約32万人が来場しています。
生産者にとっても消費者にとっても分かりやすく実のあるイベントです。
写真1は、2009年度のパンフレットです。
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(3)道産食品独自認証制度 |
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写真2:
道産食品独自認証制度のパンフレット(※8) |
そのほかに、道が中心となって行っているものに、「道産食品独自認証制度」があります。
これは、京都などの都市でも見ることができますが、地域ブランドを地域独自に認証することで支えていこうというものです。
写真2の中央のマークは、「きらりっぷ」と名付けられ、北海道の地図(星)とハートと口を表しています。
このマークによって「安心・安全・そしてこだわりの証」が与えられます。
平成16年に発足し、認証機関は、(財)日本穀物検定協会北海道支部、(社)北海道水産物検査協会、(社)北海道酪農検定検査協会の3団体が行っており、
1.原材料に関する基準、
2.生産情報の提供基準、
3.安心に関する基準、
4.商品特性の基準、
5.官能検査基準
の5つのステップについて、厳格なチェックを行い、認証後も定期検査を行っています。
認証の対象は、14品目となっており、それぞれの品目の基準に達した各企業の商品が「きらりっぷ」マークをつけて市場に出回るという仕組みです。
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(4)北海道食育コーディネーター制度 |
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道の栄養、医学、調理、アイヌ料理、農業、食文化、環境などの専門家や実践家を独自に食育コーディネーターとして認定し、地域の要請に従って、人材育成、課題解決のための助言、指導を行っています。
「食育」という概念そのものが新しく規定されたものであり、従来から食の分野で働いてきた専門家たちをばらばらの職種のまま「食育」に絡んでいただくよりは、このような制度を作ることで食育の推進が容易になっているのではないかと思われます。
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(5)愛食料理コンテスト |
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2005年には、「愛食弁当コンクール」が行われ、写真3のような入選作品レシピ集が出来上がっています。
2009年度は、「生産者がつくる愛食料理コンテスト」が行われ、コンビニなどで商品化か進められていました。
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(6)北のめぐみ愛食レストラン |
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道内の宿泊施設、外食店のなかで、北海道産食材を使用したこだわり(自慢)料理の提供を通じ、地産地消(愛食運動)に取り組むお店を「北のめぐみ愛食レストラン」として認定しています。
写真4は、その認定マークです。
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写真3:
愛食弁当コンクール入選作品レシピ集(※9) |
写真4:
北のめぐみ愛食レストラン認定マーク(※10) |
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(7)農政部の「いただきます!ほっかいどう〜北海道の食べ物と農業のはなし〜」 |
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「いただきます!ほっかいどう」企画編集会議が構成されて取り組まれていた、おもに小中学校の児童・生徒を対象とした、北海道の食と農業について解説したものです。
これ以外にも、法律に基づいた
「北海道食育推進行動計画 〜元気もりもり道産子食育プラン〜」、「食の安全・安心基本計画」
はもちろんのこと、
「それゆけ食の探検隊(地産地消すごろく付き)」、「食べ残しをゼロに」運動、
「どさんこ食事バランスガイド」、「北の海の恵みと水産業」、「北海道伝承食文化」
などもありました。
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写真5:
いただきます!ほっかいどう(web版) |
写真6:
地産地消すごろく(※12) |
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4−2.「会議」参加生産者関連団体による独自の取り組み |
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つぎに、先にみた、「会議」の参加団体のうち、独自に情報発信を行っている団体と取り組みを紹介します。
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(1)ホクレン農業協同組合連合会/北海道牛乳普及協会 |
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調べた中では、実にユニークな取り組みと思われますが、上記の2団体が中心になって、「酪農教育ファーム認証牧場」を設定しています。
酪農教育ファーム認証牧場とは、「酪農を通していのちの教育、食の教育、心の教育を支援すること」を目的とし、「農業、自然との共存関係を学ぶことができる牧場や農場で、体験学習の実践の場として開放」できる牧場が登録されているようです(※13)。
本の内容は、「牛と人は何千年も前から友だちだった」というまえがきから始まり、「牛の家」、「牛の食事」、「牛の仕事」、「牛乳はどこを通ってくるのだろう」・・・という並びで、「牛乳でおいしいものをつくろう」では、牛乳を使ったレシピが紹介されています。
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写真7:
牧場へ行こう(※14) |
写真8:
酪農教育ファーム認証牧場(※15) |
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写真9:
牛乳を使ったレシピ(※16) |
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(2)ホクレングリーンショップによる「直送便」 |
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写真10:
ホクレングリーンショップ(※17) |
これは、異質ですが、ホクレンが産直ネットワークを作り、生産者と(地産地消を超えた全世界不特定多数の)消費者とを繋いでカタログやネットによる販売を促進している、というものです。
商品の安全・安心と美味しさをホクレンが保障する、というものでした。
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4−3.「会議」参加消費者関連団体による独自の取り組み |
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(1)財団法人学校給食会「地場産物を生かした学校給食メニュー集」 |
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写真11:
地場産物を生かした学校給食メニュー集(※18) |
平成15年より毎年学校給食の人気メニューが
冊子になっていました。
目次では、ごはん類、麺類、パン類、汁物類、煮物類、焼物蒸物類、揚げ物類、和え物類、デザート類に分けてそれぞれ2〜5種類のレシピと材料の詳細が載っています。
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(2)北海道教育委員会「きらり☆DOSANKOど・さ・ん・こ」 |
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写真12:
きらり☆DOSANKOど・さ・ん・こ
(1・2ねんせいよう、3・4年生用、5・6年生用)(※19) |
小学校1・2ねんせいよう、3・4年生用、5・6年生用の3分冊からなり、たとえば5・6年生用では、
「生活のリズム」、
「1日のスタートは朝ごはんから」、
「かんたんにできる朝ごはんレシピ」、
「作ってみよう!北海道の料理」、
「ダイエットって何だろう?」
という内容が並び、書き込み式の部分もあって総合学習や家庭科の授業でも使えるようになっています。
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(3)コープさっぽろ「食べるたいせつ委員会」の「食べるたいせつBOOK」 |
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写真13:
食べるたいせつBOOK(※20) |
「会議」では、北海道生活協同組合が参加団体となっていますが、ここでは、入手できたコープさっぽろからの情報発信を挙げたいと思います。
「1.食べるたいせつ報告編」では、
「食事はバランスよく食べよう!」
「もっとしっかり朝ごはん」
「わくわく!親子で体験クッキング」
「行ってみよう、話してみよう!産地見学」
などが書かれ、
「2.食から見た北海道ウォッチング編」では、
「食から見た北海道ウォッチング〔水田・畑編〕、〔水産編〕、〔酪農・畜産編〕」
等が続いています。
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4−4.道庁を中心とした「会議」の成果と意味 |
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これらを見るとわかるように、道が中心となった「会議」を主体とした連携の取り組み、「会議」関連団体による生産者側の独自の取り組み、同じく「会議」関連団体による消費者側の独自の取り組み、など様々な主体が重層的に情報発信を持続的に行っています。
これらの北海道における「食」関連の主体の連携と情報発信の成果は、日本のなかでは最もうまくいっている例として挙げることができるのではないでしょうか。
冒頭にも述べたように、北海道のスローで牧歌的なイメージとも重なって地域ブランド調査(市町村の魅力度ランキング)で常に上位を占める市町村が並んでいます。
その成功の一翼を担ったのが我が国の食関連の法律が整備されていく前の早い時期の1997年(平成9年)に成立し、連携と情報発信を効果的に行ってきた「会議」であったということができるのではないでしょうか。 |
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