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食育と食のブランド化の情報発信


 1.はじめに

 食の安心・安全を揺るがす事件が毎日のように新聞を賑わす昨今、生活者の「食」に対する関心は高まっています。
また、わが国の食糧自給率は諸外国と比べ極めて低く、2008年度の食料自給率は、カロリーベースは前年度から1ポイント増加したものの41%、生産額ベースは前年度から1ポイント低下し65%となっています。
さらに、2002年の第159国会に提出され、2003年6月10日に成立した食育基本法による取り組みとも相俟って、食生活の改善や食の安全・安心へのこだわりは、社会の大きな流れとなりつつあります。

 正保らは、昨年度「地域ブランド(※1)」について調査しまとめました(※2)が、これは、2006年4月に「商標法」の一部改正がおこなわれ、地域+商品名という登録商標を取る事への障壁が低くなり、様々な地域商標が登録できるようになったことにより、安全・安心へのこだわりと、地域産業の振興との相乗効果によって、地域の名称を付した「地域ブランド」の動きが加速したことを考察したものです。

 地域ブランド振興には、地域ブランドを通して地元産業を活性化して、税収を増し、地場産業を活性化するという点と、ブランド化を通して、地域の魅力を再発見し、地域住民の郷土愛と誇りを独自の文化として構築し、そのことが、地域の自律につながり、さらに再生へと展開するという、プラスのスパイラルに入れば一挙両得といった向きがあるため、全国各地で様々な取り組みが行われています。

 そのなかでも、よく紹介されるのが北海道の取り組みです。
食料自給率200%を誇る北海道は、逆にいえば、食で勝負するしかないという産業構造のなかで、背水の陣で食のブランド化に取り組んできたといってよいでしょう。


 2. 食育基本法の背景と内容

   2−1. 食育基本法の背景  

 
 食育基本法は、広く国民に食育を行うことを基本目標にしていますが、大きくは2本の柱があります。その一つは、「食生活指針」であり、もうひとつは「食の安全・安心」です。
それらについて、基本法成立までの経緯を簡単に見ておきたいと思います。

 まず、「食生活指針」ですが、食生活指針とは、誰もが食生活の改善に取り組めるように配慮して作られた具体的な目標で、我が国においては、10項目から成り、2000年(平成12年)3月に当時の文部省、厚生省、農林水産省により策定され、三省では食育の一環として、その普及と実践の促進に取り組んできています。

 食生活指針の背景をみると、旧農業基本法から引き継いだ2001年(平成11年)の食料・農業・農村基本法があります。

 旧農業基本法は、1961年(昭和36年)、その当時の社会経済の動向を踏まえて、我が国農業の向かうべき方向を明らかにするものとして制定されましたが、その後、急速な経済成長、国際化の進展などによる大きな変化の中で、
  @ 食料自給率の低下、
  A 農地面積の減少、不耕作地の増加、
  B 農村の高齢化などによる活力の低下
など、我が国の食料・農業・農村をめぐる状況が大きく変貌し、危機感が共有されました。

 また一方では健康な生活の基礎となる良質な食料を供給する役割を果すこと、国土や環境の保全、文化の伝承などの農業の持つ多面的機能を十分に発揮することなど、農業・農村に対する期待は高まり、21世紀を展望した新たな政策体系を確立するための食料・農業・農村基本法が1999年(平成11年)に制定されることになりました。

 その中で、食料消費の改善及び農業資源の有効利用に資するため、健全な食生活に関する食生活指針を策定し、食料の消費に関する知識の普及及び情報の提供等の施策を推進することとされたのです(※3)

 この時の危機感を共有した三省の連携が元になって、「食生活指針」が誕生し、また、食育基本法にも繋がっていったものと解釈でき、国の省庁が連携をして基本法を策定していくという快挙が行われたと考えられます。

 もう一つの柱の「食の安全・安心」の背景については、2003年(平成15年)成立の食品安全基本法があります。
これは、BSEなどの食の安全を脅かす事故が相次いで発生したことなどから、農林水産省・厚生労働省合同の「BSE問題に関する調査検討委員会」で、リスク分析の導入と、リスク評価機能を中心とする機関の設置が提言され、この提言を受けた「食品安全行政に関する関係閣僚会議」で、その内容を盛り込んだ法の制定が決められたことに由来します。

 この食品安全基本法を含めて、食の安全・安心のための制度には、以下の法律があります。
  @
食品安全基本法、
  A JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)、
  B 食品衛生法、
  C BSE対策特別措置法、
  D 農薬取締法
 です(※4)


 
 3.「商標法」の一部改正と地域ブランド

 生産者側の活性化のための施策として「商標法の一部改正」をきっかけにして加速化した地域ブランドは、大きく分けると地域の自然、文化、歴史、素材などによる、地域独特のイメージ(具体的には地域名称が先にあります。)と、その地域イメージを伝達する商品、産品、サービスなど(の名称)で構成されます。
この組み合わせが、他の地域との明確な差別化や固有の価値を持つ事で、ブランド化がおこなわれます。
また、地域イメージを伝達する商品、産品、あるいはサービスなどは多くの場合、その始まりにおいては個別のブランドとして商品化され、主に民間の手によって行われます。
その後、商工会議所や行政、NPOなどが関わって、大きく成長をしていきます。
理論的には、逆の場合の可能性もありますが、現在のところは商品のブランド化が先に起こり、地域としてのブランド化に広がっていくというプロセスであろうと考えられます。
その間には、ある共通の価値が共有され、どこかの主体が中心になって1つの戦略に基づいた情報発信がなされ、地域の総合的連携が、実現している。この連携と情報発信の結果が、経済的効果となって地域の再生を促しています。

 前報においては、地域ブランドを展開しているいくつかの地域にインタビューに赴き、様々な工夫を聞くことができました。
その結果、大きく「人材(市民)育成」、「デザイン性」、「地域性」、「コラボレーションのためのツールとしての組織」という4点が現在のところその展開の伸び幅、スピードを決めているのではないだろうかという仮説を立て、検証をしました。

 法律においては、食育基本法と商標法の一部改正という二つのインパクトにより、食育と地域ブランドは、各地域でそれぞれ独自の展開が期待され、進められていると思われます。

 しかしながら、今回は、先にみた食育基本法の元に進められている消費者サイドを中心にした食育と、生産者サイドと地域(再)活性を中心とした地域ブランドがうまく絡まり、プラスのスパイラルによって相乗効果を上げていると思われる事例として、北海道の連携と情報発信について詳しく見ています。 
 4.北海道における「食」関連についての連携

  今回の北海道訪問調査インタビューで最も印象に残ったことは、国による様々な法律ができる以前から、すでにそれぞれの取り組みは行われており、連携も出来上がっていた、ということでした。
当初試みようとした国の施策がどのように地域で実現されているのか、という視点は、北海道においては全く逆の方向で、現実に行ってきた取り組みを、国の施策にどう繋げて再定義するかという別の課題があったように感じました。
したがって、国の施策以前からの、北海道オリジナルの連携と情報発信の方法について、考察しました。
 
   4−1. 道庁を中心とした取り組み  
   
 北海道の連携がプラスに機能している点について、北海道農政部食の安全推進局食品政策課に伺い、インタビューをしました。
その結果、いくつかの取り組みについて具体的に聴くことができました。

   
    (1)北のめぐみ愛食運動道民会議    
   
 設立は、1997年(平成9年)に遡ります。
そこから何度かの改訂の末、現在の趣旨は、以下のように記されています。
農林水産物の輸入増加や国内産地間競争の激化などにより、本道農林水産業をめぐる情勢が厳しさを増す中で、今後とも本道農林水産業の安定的な発展を図るためには、道民の道産農林水産物やその加工品に対する愛食気運の醸成と道内消費拡大の取り組みを強化することが緊急の課題となっている。
一方、食に対する消費者の関心が高まる中、生産者をはじめとした関係者の安全で安心な食品の生産・供給や、消費者の食に関する知識や安全な食品を選択する力の習得などを通じ、生産する側と利用する側が相互の信頼関係を構築するとともに、北海道ならではの地域に根ざした食文化を継承・発展させていくことが求められている。
このため、地元でとれた農林水産物やその加工品を地元で消費する「地産地消」をはじめ、北海道に合った「スローフード運動」、食に関して必要な知識を学び実践する「食育」などを総合的に推進するため、「北のめぐみ愛食運動道民会議」(以下『会議』という。)を設立し、関係者が一体となって道民運動としての「愛食運動」を推進する。(※5)

 この趣旨を読めば、この「会議」の目的は、大きく2つあることがわかります。
書かれた順から言えば、生産者サイドを守ること、そして消費者サイドも守ること、そのために「地産地消」、「スローフード運動」、「食育」の3つの分野の推進を図る、というものでありました。

 会長には、北海道知事が就いており、「愛食宣言」を次のように行っています。(※6)
一、 私たちは、北海道の大自然の中で育まれた豊かな恵みを味わい、質の良い、安全な食物を生産する皆さんを支え、その源である北の大地や海を守っていきます。
一、 私たちは食べ物の生い立ちに関心を持つとともに、食のあり方を見つめ直し、健康的な食生活をめざします。
一、 私たちは地域の食材や料理を大切にし、北海道ならではの豊かな食文化を育み、伝えていきます。

ここでは、生産者側と消費者側の連携を謳うとき、団体の並びにおいても宣言の文面においても、生産者を先に置いていることがわかります。
生産者の努力があっての、地産地消であり、食育であるという認識があると解することができます。
ただし、パンフレットの「愛食運動とは」の説明において、
・・・・北海道が平成15年4月に発表した「北海道スローフード宣言」に掲げる理念と、平成17年3月に制定した「北海道食の安全・安心条例」に掲げる地産地消を総合的に普及啓発し、効率や価格の安さばかりを追求してきたこれまでの暮らしや生き方そのものを変えていこうとする道民運動

とされているように、資本主義的な経済の論理で動くのではなく、消費者側の安全・安心の論理を生産者側に届けるという展開もなされており、北海道の食を安全・安心で底上げしつつ、全体として盛り上げていこうというものでした。

 生産と消費はある時は緊張関係にありますが、北海道においては、この「会議」の成立によって風通しの良い場所ができ、真摯に発言しあうことで高めあることもできるという実践が行われたととらえることができ、競争原理を損なうことなく、消費者の論理を滑り込ませる方策のモデルを見たように思いました。

   
    (2)北のめぐみ愛食フェア     
   
写真1:
北のめぐみ愛食フェア2009パンフレット
(※7)
 さて、「会議」は緩やかな連帯を作り、その目的にあわせて内部の団体が様々に連携をとりながら進められているようです。
そのもっとも大きな取り組みイベントとして、「北のめぐみ愛食フェア」があります。
これは、全道の生産者が各地より農産物、水産・畜産加工品等を持ち寄って自ら対面方式で直接消費者に販売する、といいうもので、毎年5月から11月の間、全道で開かれています。
2008年度の実績は、11会場で延べ46回75日間開催され、約32万人が来場しています。
生産者にとっても消費者にとっても分かりやすく実のあるイベントです。
写真1は、2009年度のパンフレットです。



   
    (3)道産食品独自認証制度    
   
写真2:
道産食品独自認証制度のパンフレット
(※8)
 そのほかに、道が中心となって行っているものに、「道産食品独自認証制度」があります。
これは、京都などの都市でも見ることができますが、地域ブランドを地域独自に認証することで支えていこうというものです。
写真2の中央のマークは、「きらりっぷ」と名付けられ、北海道の地図(星)とハートと口を表しています。
このマークによって「安心・安全・そしてこだわりの証」が与えられます。
平成16年に発足し、認証機関は、(財)日本穀物検定協会北海道支部、(社)北海道水産物検査協会、(社)北海道酪農検定検査協会の3団体が行っており、
 1.原材料に関する基準、
 2.生産情報の提供基準、
 3.安心に関する基準、
 4.商品特性の基準、
 5.官能検査基準
の5つのステップについて、厳格なチェックを行い、認証後も定期検査を行っています。

 認証の対象は、14品目となっており、それぞれの品目の基準に達した各企業の商品が「きらりっぷ」マークをつけて市場に出回るという仕組みです。

   
     (4)北海道食育コーディネーター制度    
     
 道の栄養、医学、調理、アイヌ料理、農業、食文化、環境などの専門家や実践家を独自に食育コーディネーターとして認定し、地域の要請に従って、人材育成、課題解決のための助言、指導を行っています。
「食育」という概念そのものが新しく規定されたものであり、従来から食の分野で働いてきた専門家たちをばらばらの職種のまま「食育」に絡んでいただくよりは、このような制度を作ることで食育の推進が容易になっているのではないかと思われます。

   
     (5)愛食料理コンテスト    
   
 2005年には、「愛食弁当コンクール」が行われ、写真3のような入選作品レシピ集が出来上がっています。
2009年度は、「生産者がつくる愛食料理コンテスト」が行われ、コンビニなどで商品化か進められていました。

   
     (6)北のめぐみ愛食レストラン    
   
 道内の宿泊施設、外食店のなかで、北海道産食材を使用したこだわり(自慢)料理の提供を通じ、地産地消(愛食運動)に取り組むお店を「北のめぐみ愛食レストラン」として認定しています。
写真4は、その認定マークです。

写真3:
愛食弁当コンクール入選作品レシピ集
(※9)
写真4:
北のめぐみ愛食レストラン認定マーク
(※10)

   
     (7)農政部の「いただきます!ほっかいどう〜北海道の食べ物と農業のはなし〜」    
   
 「いただきます!ほっかいどう」企画編集会議が構成されて取り組まれていた、おもに小中学校の児童・生徒を対象とした、北海道の食と農業について解説したものです。

 これ以外にも、法律に基づいた
「北海道食育推進行動計画 〜元気もりもり道産子食育プラン〜」、「食の安全・安心基本計画」
はもちろんのこと、
「それゆけ食の探検隊(地産地消すごろく付き)」、「食べ残しをゼロに」運動、
「どさんこ食事バランスガイド」、「北の海の恵みと水産業」、「北海道伝承食文化」
などもありました。

写真5:
いただきます!ほっかいどう(web版)
写真6:
地産地消すごろく
(※12)


   
   4−2.「会議」参加生産者関連団体による独自の取り組み  
   
 つぎに、先にみた、「会議」の参加団体のうち、独自に情報発信を行っている団体と取り組みを紹介します。

   
     (1)ホクレン農業協同組合連合会/北海道牛乳普及協会    
   
 調べた中では、実にユニークな取り組みと思われますが、上記の2団体が中心になって、「酪農教育ファーム認証牧場」を設定しています。
酪農教育ファーム認証牧場とは、「酪農を通していのちの教育、食の教育、心の教育を支援すること」を目的とし、「農業、自然との共存関係を学ぶことができる牧場や農場で、体験学習の実践の場として開放」できる牧場が登録されているようです(※13)

 本の内容は、「牛と人は何千年も前から友だちだった」というまえがきから始まり、「牛の家」、「牛の食事」、「牛の仕事」、「牛乳はどこを通ってくるのだろう」・・・という並びで、「牛乳でおいしいものをつくろう」では、牛乳を使ったレシピが紹介されています。

写真7:
牧場へ行こう
(※14)
写真8:
酪農教育ファーム認証牧場
(※15)
写真9:
牛乳を使ったレシピ
(※16)


   
     (2)ホクレングリーンショップによる「直送便」    
   
写真10:
ホクレングリーンショップ
(※17)
 これは、異質ですが、ホクレンが産直ネットワークを作り、生産者と(地産地消を超えた全世界不特定多数の)消費者とを繋いでカタログやネットによる販売を促進している、というものです。
商品の安全・安心と美味しさをホクレンが保障する、というものでした。















   
  4−3.「会議」参加消費者関連団体による独自の取り組み    
   
(1)財団法人学校給食会「地場産物を生かした学校給食メニュー集」
   
   
写真11:
地場産物を生かした学校給食メニュー集
(※18)
 平成15年より毎年学校給食の人気メニューが
冊子になっていました。
目次では、ごはん類、麺類、パン類、汁物類、煮物類、焼物蒸物類、揚げ物類、和え物類、デザート類に分けてそれぞれ2〜5種類のレシピと材料の詳細が載っています。











   
     (2)北海道教育委員会「きらり☆DOSANKOど・さ・ん・こ」    
   
写真12:
きらり☆DOSANKOど・さ・ん・こ
(1・2ねんせいよう、3・4年生用、5・6年生用)
(※19)
 小学校1・2ねんせいよう、3・4年生用、5・6年生用の3分冊からなり、たとえば5・6年生用では、
 「生活のリズム」、
 「1日のスタートは朝ごはんから」、
 「かんたんにできる朝ごはんレシピ」、
 「作ってみよう!北海道の料理」、
 「ダイエットって何だろう?」
という内容が並び、書き込み式の部分もあって総合学習や家庭科の授業でも使えるようになっています。



   
      (3)コープさっぽろ「食べるたいせつ委員会」の「食べるたいせつBOOK」    
     
写真13:
食べるたいせつBOOK
(※20)
 「会議」では、北海道生活協同組合が参加団体となっていますが、ここでは、入手できたコープさっぽろからの情報発信を挙げたいと思います。

「1.食べるたいせつ報告編」では、
 「食事はバランスよく食べよう!」
 「もっとしっかり朝ごはん」
 「わくわく!親子で体験クッキング」
 「行ってみよう、話してみよう!産地見学」
などが書かれ、
「2.食から見た北海道ウォッチング編」では、
 「食から見た北海道ウォッチング〔水田・畑編〕、〔水産編〕、〔酪農・畜産編〕」
等が続いています。




   
    4−4.道庁を中心とした「会議」の成果と意味  
   
 これらを見るとわかるように、道が中心となった「会議」を主体とした連携の取り組み、「会議」関連団体による生産者側の独自の取り組み、同じく「会議」関連団体による消費者側の独自の取り組み、など様々な主体が重層的に情報発信を持続的に行っています。

 これらの北海道における「食」関連の主体の連携と情報発信の成果は、日本のなかでは最もうまくいっている例として挙げることができるのではないでしょうか。
冒頭にも述べたように、北海道のスローで牧歌的なイメージとも重なって地域ブランド調査(市町村の魅力度ランキング)で常に上位を占める市町村が並んでいます。
その成功の一翼を担ったのが我が国の食関連の法律が整備されていく前の早い時期の1997年(平成9年)に成立し、連携と情報発信を効果的に行ってきた「会議」であったということができるのではないでしょうか。
   
 5.札幌市における取り組み      
 
 さて、北海道の道庁所在地である札幌市の食関連の取り組みについても、聞き取りを行っています。

 札幌市食育推進計画は、2008年(平成20年) 9月に5年計画で成立しています。
その背景は、2005年の食育基本法の成立を受け、条例は2007年(平成19年)4月に制定、その後食育推進会議で2007年から2008年にかけて議論の末、策定されています。

 その基本線として、「北海道型食生活」を進めるというものがあります。その中身としては、
 「1.新鮮でおいしく安全な(北海道の)食材:札幌市は、日本の食材の宝庫である。」
 「2.健康的な食生活:米を主食とした日本型食生活」、
 「3.環境にやさしい:北海道の食材を使ってフードマイレージを低く」、

 という3点が提唱されています。

 計画によれば、
消費者側である子どもたちが食を体験学習によって学び、生産者を理解することが盛り込まれ、農業の現場を見ることで理解を深め、生きたものを「いただく」ことから「ごちそうさま」ということばの本質が分かり、1食1食を大切に、エコ、食を大切にする心を育む。

また、ライフステージに合わせ、すべての市民が協力して取り組めるよう、おもな取り組みの場所を家庭、学校・保健所、職場、地域という4つのカテゴリーに、項目ごとに○をつけて重層的に取り組む
ことができるよう示されています。

 計画は、保健所が中心になって、学校等の関係6局で素案を作成、検討して提案、事務局は保健福祉課に置いています。
これは、各市町村の産業構造によって違いがありますが、札幌市の場合は札幌市内の190万人の1%しか食の生産者ではないため、消費者サイド中心ということで保健福祉課が担っていということでした。
聞くところでは、政令指定都市は保健福祉局系が多いということでした。

写真14:
札幌市食育推進計画(本篇、概要版)
(※21)
写真15:
取り組みの場所を4つに標記
(※22)


  
 
 6.経済産業省・北海道経済産業局の取り組み   
 
 さて、最後に今まで見てきた北海道の行政を核にした食育と、底上げを狙う地産地消推進の取り組みとは別に、経済産業省の北海道経済産業局の取り組みを見ておきたいと思います。
同局では、北海道の地域団体商標登録産品(地域ブランド)を使った「オリジナルレシピ集」(写真16)が作成されています。
北海道の地域団体商標登録産品(地域ブランド)は、写真17のように、9団体11の商標が登録とされています。

 これらを先の4−1.(3)でみた認証制度と比較すると、地域団体商標登録産品(地域ブランド)とは、地域の名称及び商品(役務)の名称からなる商標について、一定の範囲で周知となった場合には、事業協同組合等の団体が地域団体商標として登録することを認める制度です(※23)

写真16:
北海道の地域団体商標登録産品
オリジナルレシピ集
(※24)
写真17:
北海道の地域ブランド食材をまるごと食べよう!
(※25)


  
 
   7.北海道モデルのまとめと今後の課題
 
 以上、北海道と札幌市において行われている食の安全・安心と文化の情報発信を、食育という消費者サイドを中心とした側面と、地域ブランドという、生産者サイドを中心とした側面から見てきました。
全体のなかから見えてきたことをまとめておきたいと思います。

(1) 北海道においては、各団体の連携や情報発信が1997年立ち上がった道を核とした「北のめぐみ愛食運動道民会議」を中心に展開されてきています。
そういう意味では、食育と地産地消の連携について食育基本法などの法律に先んじていました。
(2) その背景として、全道で食糧自給率200%という、農業・漁業に頼らざるを得ない産業構造がありました。
(3) 圧倒的に食の生産者が少ない札幌市に限って言えば、食育推進計画は、他の政令指定都市と同様に食育中心に進められており、郊外の農家などに赴き、体験学習を通して食のありがたさを学ぶことがメインとなっていました。
(4) 地域団体商標登録産品(地域ブランド)のあり方をみると、競争原理が中心であり「会議」とは別の動きとなっており、全道の地産地消の底上げと食育が一つになって連携と情報発信が行われている「会議」のあり方とはなじみにくいかも知れません。
(5) しかしながらどの分野の情報発信も、最終的には道産の食材と写真付きのレシピという2つの内容を基本としていました。
(6) したがって、北海道のあり方から学びつつ、食の安全・安心と文化の情報発信を検討しようとするとき、2つのステップあるいは2本のラインの上で全体の計画を考える必要があるように思います。

つまり、ひとつは食育と地産地消を繋げた、行政が中心となって進められる「会議」を形成してフェアやコンクール、認証制度などの枠組みを決めてその枠組みの中で様々な主体が活発に動きつつ、その全体像についての情報発信を行うものであり、もう一つは次のステップあるいは先の「会議」と並行して進められるべきもので、それぞれの地域の団体による競争原理のなかでの地域ブランドを生みだしやすい環境づくりではないかと考えられます。

  
 
 詳しくは、正保正惠・佐藤俊郎・村尾正治
「食の安全・安心と文化の情報発信―食育と地域ブランドの北海道連携モデル―」 『福山市立女子短期大学研究教育公開センター年報』7号 2010年pp19−28 に載せています。

<謝辞>
本研究を進めるうえで、インタビューに応じていただきました、北海道農政部食品政策課の皆様、札幌市保健福祉課の皆様、家庭科教育関連の皆様に厚く御礼を申し上げます。



(※1) 中小企業基盤整備機構「地域ブランドマニュアル」によれば、地域ブランドとは、「地域に対する消費者からの評価」であり、「地域が有する無形資産のひとつ。・地域ブランドは、“地域そのもののブランド”と、“地域の特徴を生かした商品のブランド”とから構成される。・地域ブランド戦略とは、これら2 つのブランドを同時に高めることにより、地域活性化を実現する活動のこと」とされる。
(※2) 正保正惠・佐藤俊郎・小林正和・渡辺幸三・武井晶代「地域ブランド活性化プロジェクト―生活に根ざした地域産品と地域の再活性―」福山市立女子短期大学研究教育公開センター年報第6号、pp31-38
(※3) 食育・食生活指針の情報センター http://www.e-shokuiku.com/guide/4_2_1.html (2010年1月11日閲覧)
(※4) 同上 http://www.e-shokuiku.com/safety/index.html (2010年1月11日閲覧)
(※5) 北海道「北のめぐみ愛食運動道民会議設置要領」
(※6) 北海道「愛食弁当コンクール入選作品レシピ集」巻末
(※7) 北のめぐみ愛食フェア実行連絡会、「北のめぐみ愛食フェア2009」
(※8) 北海道農政部 食の安全推進室 食品政策課「道産食品独自認証制度オフィシャルブック2008」
(※9) 北海道農政部 食の安全推進室 食品政策課「愛食弁当コンクール入選作品レシピ集」
(※10) 北海道農政部 食の安全推進室 食品政策課「道産食品独自認証制度オフィシャルブック2008」p13
(※11) http://www.marugoto.pref.hokkaido.jp/itadakimasu/
いただきます!ほっかいどう. 〜北海道の食べものと農業のはなし〜
(※12) 北海道農政部 食の安全推進室 食品政策課「それゆけ!食の探検隊 地産地消すごろく付き」
(※13) ホクレン農業協同組合連合会/北海道牛乳普及協会「牧場へ行こう」p22
(※14) ホクレン農業協同組合連合会/北海道牛乳普及協会「牧場へ行こう」
(※15) 同上p22
(※16) 同上pp18-19
(※17) ホクレングリーンショップ「2009ホクレングリーンショップ こ・だ・わ・り・直・送・便」
(※18) 財団法人北海道学校給食会「地場産物を生かした学校給食人気メニュー集」
(※19) 北海道教育委員会「きらり☆DOSANKOど・さ・ん・こ」(1・2ねんせいよう、3・4年生用、5・6年生用)
(※20) コープさっぽろ「食べるたいせつBOOK」
(※21) 札幌市保健福祉局保健所「札幌市食育プラン『札幌市食育推進計画』本篇・概要版」
(※22) 同上概要版
(※23) 北海道経済産業局「北海道の地域団体商標登録産品オリジナルレシピ集」p2
(※24) 経済産業省北海道経済産業局「北海道の地域団体商標登録産品 オリジナルレシピ集」2008.4.
(※25) 同上pp1〜2















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