家政学・家庭科教育の歴史と哲学

政学・家庭科教育の
歴史と哲学
家政学・家庭科教育の歴史と哲学
米国の家政学の歴史を総括していると思われるマージョリー・イースト『家政学の過去・現在・未来』(原題 Past, Present, and Future 1980で提唱されている,家政学の4つのモデルを辿る。
イーストは,第一の源流的モデルを世帯の経営-エコノミックスモデルとしていますが,筆者はより分かりやすくアリストテレスモデルとします。アリストテレスは,『倫理学』の中で,真理に到達するのに通るべき5つの心の状態として科学・芸術・実用的知性・直観的知性・論理的知性を措定しました。ここで,「実用的知性」はアリストテレスの『政治学』の第1巻「世帯論」にもつながるものであろうが,エコノミックスの起源がギリシャ語のオイコノミア(oikonomia)にあり,その最小単位としての世帯=家政の学は,家政学の始まりと捉えています。その担い手が各家の男性の主であったことを考えると,イーストが,このようなアリストテレス的な概念を家政学の知の性格を位置づける一つのモデルとみなしたことは,男性の家政学モデルが存在したという例証であり(注意深い吟味を要しますが)今後の家政学の哲学を再検討する上で重要な視点であるといえます。
第二は,環境改善への科学の適用-人間環境学と記されています。同じく米国家政学のレイクプラシッドモデルと呼びます。エレン・リチャーズが牽引した近代家政学の発祥として名高いレークプラシット会議において,以下の定義がなされています。「家政学は・・・人間が直接かかわる物的環境と,社会的存在としての人間の本性と,特にこれら2要素間の関係とに関する法則,条件,原理,理想を追求する学問領域である。」(AHEA,1902)
第三は帰納的推論-調理と裁縫と記されていますが,デューイの帰納的モデルと名付けます。デューイは,シカゴ大学実験学校において,実験室,台所,食堂を併せ持つ校舎をつくり,学校では子どもの生活=存在こそが太陽であり,学校でともに生きることこそ学ぶことであるとして実践し続けました。この思想は,とくに実習を50%以上行うことにしている家庭科教育の根幹の原理であるといってよいと思われます。
最後に第四の女性的,家庭的な役割への女性教育=女性モデルとして,キャサリン・ビーチャーとハリエット・ビーチャー・ストウの『アメリカの婦人の家庭と家事科学の原理』が挙げられています。著者らは,次のように論じています。「女権拡張論者は女性を不能力状態から解放し,女性の苦しみをいやすべく真剣に努力されてはいるが,それらの誤りの主な原因は,家族の中で女性が置かれている立場に対する誇りと義務が正しく評価されていないこと,男子が自分の商売や専門的仕事について教育を受けるようには,女性は女性の務めに対して十分教育されてはいない」(Beecher,1869,p452)」。ここでは,家政学は家事≒女性の地位をそのままにした私的領域として引き上げることをめざして進化してきたと捉えられていることがわかります。
これら4つのモデルはそれぞれに,歴史的に順に家政学とは何かを巡る議論において,様々に参照されてきたものです。しかし,近年の家政学をめぐる議論で注目されてきたのは,第4のモデルでした。この女性の地位とその位置づけを巡る問題こそ,現代の家政学のあり方についての議論の紛糾と危機につながる大きな争点となってきたのです。